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【読書感想】「アイヌ学入門」

アイヌ学入門 (講談社現代新書)

アイヌと聞くと、北海道の大自然の中で自然と共生し、太古以来の平和でエコロジカルな生活を送っていた民族というのが一般的なイメージでしょう。
しかし、これは歴史的事実を無視した全くの誤解に過ぎません。例えば中国が元の王朝だった時代、元朝は現在の沿海州地方に出兵し、その地でアイヌと戦争をしました。鷲羽やラッコの毛皮など、当時珍重されていた品々を調達するために北海道、樺太から沿海州にまで進出してきたアイヌの人々を排除するためでした。この事例からも窺えるように、中世のアイヌは大交易民族でした。奥州藤原氏が建立した中尊寺金色堂の金もアイヌがもたらしたものだった可能性があるのです。
著者によれば、アイヌは縄文の伝統を色濃く残す民族です。本州では弥生文化が定着したあとにも従来の縄文の伝統を守り、弥生に同化しなかった人々、それがアイヌだったのです。有名な熊祭りも、縄文の伝統を今に引き継いだものではないかと考えられています。
また、日本との交流も従来考えられていたよりもずっと緊密でした。アイヌ語で神を意味する「カムイ」が日本語からの借用語であることは有名ですが、それだけに止まらず、様々な面において日本由来の文物を自身の文化に取り入れていったのです。
本書では、従来のステレオタイプのアイヌ像を覆し、ダイナミックに外の世界と繋がった「海のノマド」としてのアイヌの姿を様々なトピックから提示します。

Amazon内容紹介より

2015年の発刊当時から読みたいな、と思っていたのですが、思ったままに2年間も読まずに過ごしてしまいました。「ゴールデンカムイ」の新巻を読むたびに読みたい読みたい、と思い出してはいたのですが、結局ここまで読まずにいたことを読み終わってから改めて後悔してしまいましたね。本当にもっと早く読むべき本でした。読んでいれば「ゴールデンカムイ」を読むのももっと面白く読めたかもしれませんから…。


さて「アイヌ学入門」です。そもそもアイヌのことをほとんど知らないでここまで生きてきているので、入門と称されている本が新書で読めるのはとてもありがたいです。自分より下の世代の学校教育においてアイヌについての学習がどういう扱いになっているのかは知りませんけれども、少なくとも自分はほとんど学んだ記憶がありません。いくつかの読んだ本に少しばかりの記述があったり、新聞記事から気になったものを少し調べてみる、程度のことでしか得た知識はない、といっても良いと思います。それでも実家には木彫りの熊があったり、アイヌの面があったりしたので、どこかしらで親しみのある文化としては接していたようです。ちなみに本書は「序章 アイヌとはどのような人々か、第1章 縄文-一万年の伝統を継ぐ、第2章 交易-沈黙交易とエスニシティ、第3章 伝説-古代ローマからアイヌへ、第4章 呪術-行進する人々と陰陽道、第5章 疫病-アイヌの疱瘡神と蘇民将来、第6章 祭祀-狩猟民と山の神の農耕儀礼、第7章 黄金-アイヌは黄金の民だったのか、第8章 現代-アイヌとして生きる」の各章で構成されています。個人的には特に序,1,2,4,6章が面白かったですね。半分以上の章を挙げてしまっていますけど…。本書のような捻りはなくても、誠実なタイトルを掲げた新書ばかりだと読者としては嬉しいですね。


本書を読んでいて、Amazonの内容紹介にもある日本における元寇とほぼ同時期にアイヌが元に攻められた、という史実を初めて知りました。聞いたことがあったような気もしなくはないですけれども確信が持てないので初めて知ったと言って良いでしょう。元の侵攻の程度も元寇と比べると小さそうではありますが、それでも当時のアイヌの人口規模を考えるとかなりの大きさのものだったようで、最終的には服属することにはなったようですけれども、その時代のアイヌが外交的に孤立していた訳ではなくて、当時の諸勢力としのぎを削って勢力を保っていた様は本書でも指摘されているように、自分のアイヌに対する感覚からは違ったところにあったのでとても驚きました。

また特に東北地方におけるアイヌ勢力の盛衰に関してはかなり興味深く読みました。アイヌと古代日本とその古代日本の中央から蝦夷と呼ばれていた勢力、そして北海道より更に北にいたオホーツク人それぞれの勢力圏の移動はとてもダイナミックで想像しただけでも興奮してきます。また言語的な独自性、完全に孤立した状態ではなくヴァイキング的な存在としての広範に渡る貿易圏、それと対をなすような沈黙交易という習俗、そのどれもが絶妙なバランスの上で成り立っていたように感じられました。


ところで第3章の「伝説-古代ローマからアイヌへ」にはロマンは感じました。少し「イリヤッド」という漫画を思い出しましたね*1。ただ北東アジア圏を中心としたアジアでの交流は頻繁に行っていた、というのは納得ですし、古代ローマからアイヌ・日本までの道というのは想像するだけでわくわくしますけれども、他の部分の慎重さに比べると一足飛びすぎるように思えてしまいました。もちろん、東アジア圏での貿易を行った結果、西から少しずつ流れてきた文化の影響を受けている、というのはあるでしょうけれどもね。


そんな訳で「アイヌ学入門」はもっと早く読めば!と思うような読書になりました。この内容で「入門」な訳ですから、そのうちのほとんどを知らなかった自分は、どれだけアイヌのことを知らなかったのか、ということですよね。著者による類書もいくつかあるようですので、そちらも続けて読もうと思います。「ゴールデンカムイ」もこういうことを消化した上で描かれている漫画なのだなあ、と考えるとより楽しめそうですので、また1巻から再読してしまいそうですね。

*1:漫画を連想することの多さよ…